以前ツイッターで次のように呟いたことがあります。
ということで地上波での放送が始まったアニメ「スパイ教室」。
いざ放送を見てみるとかなりマニアックなヴィンテージガンが登場してくるので、老害となりつつある筆者は嬉しいかぎりです。
そこで今回はアニメ「スパイ教室」に登場する銃をご紹介します。
アニメ「スパイ教室」とは?

アニメ「スパイ教室」は2023年1月から放送開始になった美少女+百合+スパイアクションというアニメです。
原作は著者「竹町」によるライトノベルで現在まで既刊が11巻、またラノベを元にコミカライズもされています。
アニメのストーリーは、スパイ養成学校で「落ちこぼれ」と呼ばれていた7人の少女たちを招聘して「灯」というユニットを作り、不可能任務に挑むところから始まります。
本来、スパイ養成学校では落ちこぼれ呼ばわりされていた彼女たちがなぜ選抜され不可能任務に挑むチームに配属されたのか?はアニメ中で徐々に明かされていきます。
アニメ「スパイ教室」の時代設定

アニメ「スパイ教室」の舞台は架空の地域と時代ですが、そのモチーフとなる史実は歴史から推察できます。
歴史上最大規模とされる世界大戦の終結後、世界各国で講和条約が結ばれ平和を信条とした国際機関が設立された。
引用元:スパイ教室 ウィキペディア(Wikipedia)
この記述から「歴史上最大規模とされる世界大戦」という戦いのモデルになったのは第一次世界大戦の西部戦線であり、
「世界各国で講和条約が結ばれ平和を信条とした国際機関」というのは、第一次世界大戦終結後に設立された「国際連盟」であることは容易に想像できます。
そのためアニメ「スパイ教室」に登場する銃は第一次世界大戦終結から第二次世界大戦勃発までの戦間期に、ヨーロッパ各国で使用されていた銃がボーダーレスで描かれているようです。
アニメ「スパイ教室」に登場する銃1:ワルサーPPK

アニメ「スパイ教室」のチーム「灯」の少女たちの銃器で一番多いのがワルサーPPKです。

1931年から販売が開始されたこの小型ピストルは、サイズ的にも32ACP弾という威力の低いカートリッジであることでも、少女たちの小さな手でコントロールをするにはピッタリのモデルと言えるでしょう。

このワルサーPPKはドイツの警察用ピストルであったワルサーPPを、私服刑事が隠し持ちやすいように小型化したものです。
今風に言えば「コンシールドキャリーピストル」です。

その隠匿性の高さから、スパイが使うのにもピッタリですね。スパイ映画007シリーズのジェームス・ボンドの愛銃としても有名ですね。
実銃のワルサーPPKとは?

ワルサーPPKは第一次大戦終結後のドイツで開発されたセミオートピストルです。
当時のヨーロッパでは軍用ピストルは9㎜パラべラムが標準の口径でしたが、それ以外の公用機関や市販用ピストルの口径は7.65ミリ(.32ACP)が主流でした。
そのためこのワルサーPPKでも7.65ミリ口径が標準で、その他には.25ACPや.22LR弾といった小口径モデルがメインでした。
後に.380ACPも加わりますが、これは主に対アメリカ輸出モデルだったと記憶しております。
ワルサーPPKの特徴とメカニズム

ワルサーPPKの特徴は以下の通りです
作動方式はシンプルブローバック
トリガーメカニズムはダブルアクション
ピン式ローディングインジケーター内蔵
装弾数:7+1発(.32ACP弾)
この特徴をもう少し掘り下げて説明しましょう。
まず特筆すべき特徴は、1930年代のセミオートピストルとしては画期的なトリガーメカにダブルアクションを搭載していることです。
この時代の他のセミオートピストルは、ほぼ全てがシングルアクションでの撃発方式です。

セフティーをかけてハンマーダウンをした状態からトリガーを引くだけで撃発できる発射機構搭載モデルは、
このワルサーPPKやPP、そしてP38だけというオンリーワンのハンドガンなのです。
また作動方式はシンプルブローバック(ストレートブローバック)です。
シンプルブローバックとは弾頭の発射と同時に後退を始めるスライドを、リコイルスプリングのテンションとスライドの重量で遅らせて、

バレル内のガス圧が安全なレベルに下がってから空ケースを排出するというシステムです。
このシンプルブローバックの利点は構造が単純なため製造コストが低いことです。
デメリットは高威力の弾薬でこの方式は使えないことです。
シンプルブローバックで発射できるカートリッジの上限は、.380ACPまでだと言われています。
唯一の例外がライフリングの溝を深く掘って発射ガスを前方に逃げやすくし、9㎜パラべラムの威力を.380ACP並みに下げて発射するH&K社のVP70ぐらいでしょう。

そしてワルサーPPKにはチャンバーにカートリッジを装填すると、スライドの後面上部に飛び出るピン状のインジケーターがあることです。
ハンマーの上を触ってピンが飛び出ていると装填状態であると確認できるので、かなり便利な機能です。
アニメ「スパイ教室」に登場する銃2:ワルサーP38

「灯」のメンバーの中で一番の身体能力と格闘センスを持つジビア。
その能力を活かして彼女が装備するのは口径9㎜パラべラムのドイツの軍用銃「ワルサーP38」です。
ワルサーP38の開発は1935年からスタートします。
ドイツ軍はそれまで制式ピストルとして採用していたルガーP08の代わりになるピストルの開発を、ワルサー社に以来したのです。

ルガーP08の更新理由は、製造に多くの過程と精密な加工を必要とする製造コストの高さによるものです。
そして開発スタートから3年後に試作品であるワルサーHPを軍部に提出し、ドイツ軍のテストをパスして1938年にルガーP08の後継ピストルとして採用されました。
ワルサーP38の特徴とメカニズム

ワルサーP38には前述のワルサーPP&PPKから継承し発展させたメカニズムと、P38の開発に伴って新たに搭載したメカニズムがあります。
まず、ワルサーPP&PPKから継承したメカニズムは、1:ダブルアクション機構、2:ピン式インジケーターの2つです。
そしてP38から搭載された新機構が、9㎜パラべラム弾発射に対応させるためにショートリコイル機構と、
トリガーを引いた時以外は常にファイアリングピンをロックする「オートマチック・ファイリングピン・ブロック」です。
ここではこの2つの新機構についてもう少し掘り下げて説明します。
ワルサーP38の新機構:フリップアップ式ショートリコイル

上の画像はワルサーP38のショートリコイルの様子です。
1、トリガーを引く→ハンマーダウンでファイアリングピンがプライマーを叩く
2、プライマー撃発後に弾頭はバレル内を進んで飛び出す
3、同時にスライドが後退を始めるがバレルとロックされているため一体となって9ミリほど下がる
4,水平にスライドとバレルが後退した後、ロックが解けたスライドだけが下がり薬莢が排出される
これがワルサーP38の「フリップアップ式ショートリコイル」です。
このショートリコイルのポイントはスライドとバレルが水平に後退した後にロックが解け解放されるところです。
これがバレルが上下してロックを解くブローニング式のティルトアップ式ショートリコイルと違うところです。
このワルサーP38のロッキングシステムをもう少し掘り下げてみましょう。

上の画像はワルサーP38のロッキング機構を分かりやすくするためにスライドを透明化したものです。
撃発後、バレル下のロッキングブロックがプランジャーによって持ち上げられているため、スライドにロッキングリセスに噛み込んでスライドとバレルをロックしています。

さらにスライドとロッキングブロックの動きが分かるようにパーツの色を変えて表示してみました。
1,この画像で黄色のパーツがロッキングブロックで、閉鎖時にはスライドの切り込み(ロッキングリセス)に入り込んでスライドとバレルをロックしています。
2,撃発後、スライドの切り込みに入っていたロッキングブロックが、スライドの後退と共に下に落ち込み、完全に落ち込んだ所でスライドとバレルのロックが解かれて、スライドだけが後退して薬莢を排出します。
3,薬莢の排出後、リコイルスプリングによって戻されたスライドは、再びロッキングブロックを切り込みに入れてスライドを閉鎖します。
これがワルサーP38のフリップアップ式ショートリコイルの動きです。
この閉鎖システムは後年、ベレッタM92Fにそのままコピーされています。
ワルサーP38のセフティーシステム

上の画像はワルサーP38のセフティーシステムのパーツを色違いで示したものです。
この状態ではC:のファイアリングピンはA:のファイアリングピンブロックにロックされています。
この状態からトリガーを引くとB:のファイアリングピンブロックリフターが徐々にせり上がり、トリガーを引ききる3ミリ前でファイアリングピンのロックが解除されます。
これがワルサーP38のオートマチックファイアリングピンブロックです。
アニメ「スパイ教室」に登場する銃3:ベレッタM1934

アニメ「スパイ教室」のグレーテが装備する銃は、イタリア製のベレッタM1934かM1935のどちらかだと思われます。
両者の違いは使用するカートリッジが32ACPか.380ACPかの違いだけで、外見上の違いはほとんど見受けられません。

そこでこのブログでは、少女たちが小さな手で握ってもコントロールしやすい低威力カートリッジを使用するベレッタM1934だと仮定して話を続けます。
ベレッタM1934の特徴

ベレッタM1934は1934年にイタリア軍に制式採用された小型セミオートピストルです。
イタリア軍が採用したタイプは.380ACP口径のモデルです。
ベレッタM1934の特徴は1:シンプルブローバック、2:シングルアクション、3:装弾数7+1発というものです。
その他に挙げられるのがパーツ数が少ないため大量生産に向いており、製造コストが安いというところです。
ただ他のヨーロッパ諸国が、小銃なら7ミリクラス、ハンドガンなら9㎜パラべラムを採用したのに比べると、
イタリア軍の.380ACPを使用するベレッタM1934と、ケネディ大統領暗殺に使用されたと言われる6.5ミリ口径の小銃カルカノライフルとの組み合わせは威力不足の感を拭えません。
ただ日本軍もイタリア軍のカルカノライフルを参考にした口径6.6ミリの38式小銃と、
実質的な威力は.380ACPとどっこいどっこいの8ミリ南部弾を使用した14年式拳銃で戦ったことを思うと、イタリア軍をとやかく言うことはできませんね。
アニメスパイ教室」に登場する銃4:S&W M1917

アニメ「スパイ教室」のチーム「灯」の少女たちが装備する銃の殆どが小型のセミオートピストルですが、モニカだけは大口径リボルバーを装備しています。
彼女が選んだ武器は45口径6連発回転式拳銃のM1917 リボルバーです。

このM1917 リボルバーにはコルト社製とS&W社製の二つがあるのですが、
モニカが握っているM1917 リボルバーは、シリンダーラッチとエジェクションロッドが納まるバレルシュラウドの形状からS&W製M1917 リボルバーだと推察できます。
U.S.M1917リボルバーとは?

M1917 リボルバーとは悪い言い方をすればコルトガバメントの代用品として開発されたリボルバーです。
そのためM1917の弾薬は リボルバーでありながら使用するカートリッジはコルトガバメントの.45ACPを採用しました。
これはM1917 リボルバー用に新たなカートリッジを採用して補給面での混乱を避けるためと、.45ACPの威力に絶大な信頼を寄せていたためでしょう。
ただ、オートマチック用のリムレス(薬莢の下の縁が出っ張ていない)カートリッジでは、リボルバーのシリンダー内を抜け落ちたり、固定が甘いために不発が多発する可能性が多かったのです。
そこでM1917 リボルバーでは.45ACPでもリボルバーのシリンダーで使えるように「ハーフムーンクリップ」という半月状の薄い金属板を.45ACPのリムにはめ込むことで対応したのです。
大型で携帯性も悪く、威力だけは無駄に強いこのM1917 リボルバーはスパイ用装備としては?とも感じるのですが、
アニメ「スパイ教室」の銃器設定スタッフには何か考えがあって、敢えてこの銃を選んだのかもしれません。
アニメ「スパイ教室」に登場する銃5:EMP35
以前、このようなツイートをしました。
アニメ「スパイ教室」の潜入先の護衛兵が手にしている銃が何か?を計りかねていたのです。

この方の示した画像に思わず「これやん!」と納得しました。
「クロミネ 雄号機」さん、ありがとうございました。
アニメ「スパイ教室」の銃のまとめ
今季のガンアクション系アニメを幾つか注目してきましたが、美少女+百合+ガンアクションという点では激しい銃撃シーンこそないものの、
リアルな銃器の描写では「スパイ教室」が鼻の差でリードしているのでは?と思っています。
特に原作のラノベの銃器設定を「リコリス・リコイル」のアサウラ氏が担当しているのも、
アニメのガンアクション描写や装備する銃器の選定に何らかの影響を及ぼすのではないかと、個人的には勝手に期待しています。